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◆ 純水ホテルの開業2006/06/27 (Tue)
　６月２０日、下妻のホテルがオープンした。初の純水風呂と酸素発生器を導入したホテルだし、私も成功を期待している。綺麗な水が庶民に理解されるのか、新鮮な酸素を吸って、ビジネスになるのか、反応が知りたい。
　このホテルは茨城の下妻にある。陸の孤島の様な場所で、車でしか行けない。１５年ほど前に、下妻の銅メッキの会社に電気分解で殺菌できる装置を販売した。当時は、新宿から車で来て、何もない退屈な印象しかなかった。ホテルの名称はルネだった。私の新宿の事務所もルネ御苑、同じ名前だった。当時、私はルネ御苑に偶然入居する事になった。赤坂で、アメリカからソフト開発の会社を誘致する仕事を頼まれた。外資の社長の住居を探したが、適当な物建がなく、ルネ御苑を紹介された。当時のルネ御苑は豪華なマンションで有名だった。オーナーのマンションは２００座席の劇場もあり、プールや踊りと録音スタジオなども備わっていた。私の隣りの部屋は映画監督の市川昆さん、その他に多くの芸能人、著名人が住んでいた。賃貸の交渉で、アメリカ人と直接契約は出来ないと言われて、代わりに私が契約した。当時は独立したばかりで、信用はなかったが、調査なしで、機械的に入居が決まった。最上階で広さは５０坪、後には隣も借りて全部で１００坪ほどの広さがあり、中庭もある豪華な事務所を兼ねた住まいだった。一緒に働いていた同僚の女史が一目室内を見ただけで、感激していた。私は、少しずつ階段を登って、成功して豪華なマンションに住むより、最初から金をかけた場所で勝負をする事にした。家賃を払うために働いた１０年間だったが、ビジネスは広がった。ヒルズ族が高い家賃のマンションに住み、信用を付ける事はわかる気がする。住む場所、車、服装、中身より、外見が評価される。しかし、信用がついたが、新宿は空気が悪いので、新浦安の高層住宅を購入した。環境はリゾート感覚で、新宿より良かったが、他人から見れば、都落ちした印象を持たれ来訪者は無くなった。東京の一等地の最上階にいた時には、顧客は毎日、仕事を持ち込んで来たが、場所が変ると、雲泥の差で、単なる名もない零細企業に成り下がった。
　水野から、新築した新しいホテルの名称がルネからＡ−Ｏｎｅホテルに変わったと聞いた。この名前も奇遇だった。私が最初に会社を作った名前がＡ1プロだった。ホテルがオープンの日、私は朝から透析、終って、羽田に直行、ソウルに出張に出かけた。ホテルがオープンして、純水装置が順調に稼動しているのか心配だったが、是非、成功して欲しいと祈っていた。私はホテルに大型の純水装置を入れたいと何年も前から計画していた。福岡の外資系のホテルには既に導入されているが、他社価格は数千万円もする。メンテナンス費用も普通のホテルでは払えない。私の会社は零細だし、三流の評価しか受けていないが、手作りで純水装置を造れるし、板金加工も、技術力は日本でもトップクラスだ。昔、この加工業者の社長が工場長をしていた時に、３億円を投資したこともある。技術を担当する水野も１２年間殆んど休まずに働き技術を学んできたし、アメリカ、欧州、中国、韓国のメーカーと交流させた。諸外国の一流の企業のオーナーからは信頼を得ている。今まで色々な経営者から純水の相談を受けたが、純水装置の投資を決断する経営者はいなかった。１５年ほど前から、山梨と北海道で小さな純水風呂をはじめ色々ノウハウを蓄積してきたが、大型設備は未経験だった。半導体や産業分野には相手方にも専門家もいるので、大型設備を販売するが、素人に売るには危険が多すぎた。事の始まりは、日本経済新聞に大型膜の記事が掲載された。記事を読んで、設備を検討したいと電話があった。その電話の前に、つくばに住む人が、下妻にホテルを購入し、当社の装置を検討したいと事務所に来られたことがある。現地を見たが、水質は難しいので、大手の価格を提示した。下妻から問い合わせがあったので、同じ人と勘違いし、渋々出かけた。ホテルに着くと、社長が出てきて汚い家に通された。田舎の古ぼけたホテルで、外見は、お金はなさそうだった。顧客の心を傷付けずに、断る事だけを考えていた。完成図面を見せられたが空耳で聞いていた。初対面なのに、奥さんを失くして経理が大変だと愚痴を零すし、益々絶望感に襲われた。断る口実で純水風呂を提案した。綺麗な水、健康、美容をセールスにする提案だった。純水装置は高額な装置だが、我々が作ると採算は合う。トータルで考えると純水装置の方が、採算性は高い。井戸水の浄化は何が起るか分からないし、色度とマンガンの除去は難しい。塩素と除鉄装置ではとれないし、保健所の認可を得るにも時間もかかる。客のニーズも贅沢で、差別化が求められる。純水風呂は浴槽の掃除も楽だし、洗剤も少なくて済む。前々から奨めてきたが、オーナーで、純水を理解する人がいなかった。数日経って見積もりが欲しいと連絡があったが、購入する意思の無い人には見積を出さないので、返事をしなかった。話が進まないので、オーナーが設計士を連れて事務所に乗り込んで来られた。純水の効能を説明すると、設計士が純水なら心配はない。つくばの研究所でも使っている最先端の装置だと理解されて、話が一気に具体化しはじめた。設計する際、水野に電気関係と制御盤の容量を倍にするようにと指示をだした。倍の装置を作ると儲からないが、水は不思議と、汚いと使わないが、綺麗になるととドンドン使い出す。７０歳のオーナーが新築のホテルに投資をして、純水装置を入れる博打的な考えに、私も腹を決めた。私と水野が応援すれば水の方は大丈夫だと思うし、困れば、相談にも乗れる。成功すれば、私の利益にもなる。装置を納める小屋の入口が狭かったので、装置をばらして製作し、現地で組みたてる方式にした。作業が始まると、水野の働く姿に驚嘆する。私は若い時に月に２４０時間の残業をこなしていた。勿論、労働基準に反したが、昔は工場の立ち上げ時には働き捲くったものだ。現場での彼の働く態度で、信頼を深めてきた。彼は終るまで休まないし、手を抜かない。手を抜くと私に見抜かれるから油断もしない。私と彼の関係は上司と部下の関係を超えて、頭の中はお互いに戦争状態で競っている。私の考えている水準を見事にこなすし、それ以上の水準を超えないし、またレベルの低い仕事はしない。私が老体に鞭打って戦い続けるのも、私のレベルが下がると彼は伸びないし、心の好敵手が傍にいるので、幸福である。他の工事業者と比較してオーナーと実の娘さんが水野の仕事を見ていたが、任せられる仕事の態度から、信頼感が芽えだした。私達は三流のプロで、無名、小さな会社であるが、常に、世界と戦って生きてきた。体を使い、頭を使い、コストの安い装置を作れるので、請けた仕事は責任を持ってこなす。将来、このホテルは娘さんが受け継ぐ事だろう。娘のために、親は財産を残したいと思ったのだろうが、娘には厳しい。しかし、娘さんは逃げないし大変な仕事を受け継ぐが、抜群の底力で働きだした。７０歳のオーナーは新しい挑戦に燃え捲くり、現場で、仁王立ちで指揮をとる。新しい挑戦の場は年齢を超えて若い命を与えられるのだろう。元気に働けるのであれば、貯金をして細々と生きるより、使い捲くって死んで行った方が良いと思う。オーナーは、新たに新しいホテルを考えている。私も唖然とするが、協力したいと考えている。この親と娘さんと出会って久しぶりに楽しみが増えた。仕事に戦う根性が気にいった。働き者で、珍しい逸材に会えて嬉しい。２６日の朝、オーナーの孫が私に会いに来た。顔も態度も性格も予想通りの逸材の卵だった。