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◆ 調査レポートA2006/08/30 (Wed)

調査レポート@の続き...

<区の役割>

 区の対応について、主にインターネットを利用して調べた。練馬区・板橋区・新宿区・墨田区・目黒区の防災対策担当にメールを送っていろいろと質問してみたが、今のところ返事をくれたのは目黒区と板橋区、墨田区と練馬区である。9月1日は防災の日、ということもあってどの区も防災訓練に追われているのかもしれない。区によって多少質問した内容は異なるが、以下に目黒区や板橋区にした質問とそれに対する回答を載せておく。

◎目黒区

 目黒区では、災害の発生に伴い、水道の断水等により飲料水を得ることができない者に対し、必要最小限の飲料水(1人1日3ℓ)を下記の施設から供給する計画となっています。
 @第一次避難場所である区立小・中学校の受水槽
 A都立林試の森公園内応急給水槽
 B八雲給水所

質問1. これらの水はすぐに利用できる状態にあるのでしょうか?
⇒ @ABは常に清浄な水を循環させる仕組みになっているので、災害時でも迅速に飲料水を提供することができます。
 
質問2. 水質基準の50項目を満足させるのはなかなかハードルの高いことだと思うのですが、どのような工夫をしているのでしょうか?
⇒ @は、区が受水槽清掃を年1回実施しています。
ABは、東京都水道局が必要な対応をしています。

質問3. 災害が起きた時、どうやって水を利用できるのでしょうか?直接受水槽へ行って蛇口などから水を得られるようになっているのでしょうか?

⇒ @は、受水槽採水口に小型消防ポンプを接続できるよう取付金具を設置してあります。停電時は小型ポンプを接続して送水し、仮設蛇口により給水します。
ABには、非常発電設備も設置されています。停電時はこれを稼動して仮設給水栓により給水します。第一次避難場所への飲料水の補給については、ポリタンク・連続飲料水袋詰機(ウォーターパッカー:飲料水を1ℓずつビニール袋に詰める装置)を使用します。

質問4. 大体何人分の飲料水を確保できるようになっているのでしょうか?
⇒ @は、9㎥〜40㎥の容量があり、1校平均23.3㎥です。第一次避難場所1か所当たり1人1日3ℓ換算で延べ7,766人分の飲料水を確保していることになります。
Aは、1,500㎥の容量があり、1人1日3ℓ換算で延べ50万人分。
Bは、16,600㎥の容量があり、1人1日3ℓ換算で延べ553万人分。

質問5. 緊急事態に備えるのは予測しきれないことがあって大変かと思いますが、飲料水の確保について苦労されていることがあったら教えてください。

⇒ 災害時の避難所運営を円滑に行うためには、区職員、教職員、地域住民の連携・協力が欠かせません。このため、第一次避難場所における避難所運営訓練を毎年5か所で実施し、給水、給食、トイレ組立て等の訓練を行っています。また、災害に対する備えとして、各家庭や事業所においても、飲料水、食料等を備蓄するよう周知・啓発しています。

◎板橋区

*利用する水は小学校などに設置してある水槽だけなのでしょうか?
⇒防災専用深井戸が区内18箇所に設置されている。毎年の水質検査によると金属は検
出されていないので、おなかを壊さないよう煮沸してから使うことになる。

*緊急用の水が水質基準50項目を満たすようにどのような工夫をしているのでしょうか?
⇒板橋区は26項目で検査を行っている。
 井戸水については、地下にガスがたまって水が腐ってしまわないように、小学校の池に水を引っ張ってきて常に循環させている。

*飲用水を提供するために隣接区や水道局から水を供給してもらうのでしょうか?
⇒都の用意した施設(応急給水槽など)を使う。

*給水の拠点は、被災者を支えるために十分確保されているのでしょうか?
⇒都の応急給水槽、区の防災専用深井戸に加えて、避難所には水が2t入る水槽が用意されている。これを利用して水を車などで運搬することも可能。

*緊急事態に備えるのは予測しきれないことが多くて大変かと思うのですが、飲用水の確保について苦労されていることがあれば教えてください。
⇒井戸水の煮沸の手間。水を運搬したくても、道路が壊れてうまくいかないかもしれないこと。

板橋区の採用している26項目は、古い水質基準かもしれない。

◎墨田区

質問1. 昼間、地震などによって帰宅困難な会社員が多数出た場合も含めて、すべての人々に水を供給することは可能でしょうか?
→ 墨田区では、帰宅困難者数も含めて、飲料水量を確保しています。給水基準は、1日1人当たり3リットルです。

質問2. 飲用水曜ろ過機を使うことで水質基準50項目を満たすことはできるのでしょうか?
→ 墨田区では、ろ過機を使用する原水が学校プール貯水槽の水であり、それらはもともと上水であるため、水道法で定める水質基準をクリアしています。ただし、一定期間貯水した水であるため、ろ過機で不純物を取り除き、再度、塩素により消毒をすることとしています。

質問3. 機械は定期的に使わないと、いざというときに使えなくなってしまうと思うのですが、このことについてはどうされているのでしょうか?
→ 定期的に保守点検を実施しているほか、防災訓練等でも使用するようにしています。

質問4. メンテナンスを定期的に行っていると思うのですが、部品はどれくらいの頻度で交換するのでしょうか?
→ 常時使用しているわけではないので、一律にどの程度の期間で部品交換をするかは決まっていません。点検時に、破損や不具合が確認された部品を交換することにしています。

質問5. ろ過機を使う上で不便なことなどはあるのでしょうか?
→ 可搬式とはいえ重量があるので、移動には複数の人手が必要になってしまいます。また、動力源であるエンジンを稼動させるための燃料(ガソリン)が必要になります。東京都石油商業組合と協定を締結しており、同組合から提供を受けますが、量や時間など確実でない部分があります。(手動でも稼動しますが、大量の水をろ過するのは大変です)。

質問6. 協定を結んでいる事業所というのはどのような事業所なのでしょうか?民間企業が、区に水を供給できるほど飲用水を蓄えているということでしょうか? 今ひとつ想像できないので教えていただきたいです。
→ 墨田区が協定を締結している相手方は、大容量(30トン以上)の受水層を設置している事業所や共同住宅です。ご存知のとおり、受水層は常に使用されており、新鮮な水が確保されています。それを、災害時には、提供いただくこととなります。

質問7. 「都によって確保されている水は流水のためろ過する必要がない」とあったのですが、よく分からないのでもう少し説明をいただけないでしょうか?
→ 墨田区にも1500トンの給水層がありますが、それは上水道管と直結しており、新鮮な水が貯留されています。よって、ろ過する必要はありません。詳しくは、東京都へお尋ねください。

質問8. 緊急事態に備えるのは予測しきれないことが多くて大変かと思うのですが、飲用水の確保について苦労されていることがあれば教えてください。
→ 水量は確保していますが、道路が寸断されるという最悪の事態の中で、罹災者に漏れなく手渡せるかどうかということが、一つの課題です。また、非常事態とはいえ、学校のプールや貯水槽の水を住民の方が飲用してくれるか。仮にペットボトルの水を備蓄するとなると、大量となるため、保管場所の確保や更新等によるランニングコストの増幅など、問題点も多いわけです。絶対的な答えがないので、最善策を検討し、対応していく必要があります。

実際に電話をかけて区役所を訪ねてみたのは、世田谷区と中野区だ。中野区は、質問項目を書いた紙を提出しただけで、今のところそれに対する回答は受け取っていない。

◎世田谷区

 災害時に確保すべきもので、水と食料だったら、水の確保に力を入れるべきと考えている。阪神大震災の例では、地震が起きてその日のうちに物流はスタートしていた。食べ物については買い求めることも可能と考えられるが、水については、一日の必要量が人一人につき3リットルとなると、買い求めて確保するのは難しい。しかし区内の井戸水を飲めるようにしようという働きかけはしていない。質問に答えてくれた人は、飲み水を提供するのは都の役割だから区はそのようなことはしてはいけないと言っていた。二年に一度、震災対策用井戸は水質検査を行っている。水質検査は井戸水が飲めるほどきれいではないことを知らしめるためにやっており、検査結果を受けてもきれいにするための努力はしない。
 災害が起こったとき、動ける人は浄水場・給水所・応急給水槽・受水槽へ水を汲みにいく。ほとんどの人が2km歩くことになると考えられる。動けない人がいる病院などへは、都が水を運搬する。区は、人々に給水拠点がどこにあるかを知らせるために活動。

普段は、
*生活用水の確保
*非常用の水の備蓄を促すための周知・啓発
                               位しかしかきないようだ。  

 応対してくれた人は、世田がプールに取り付けているろ水機の性能も水質基準項目も知らない人だった。たまたま答えてくれた人が知らなかっただけかもしれないが、世田谷区は災害時の飲料水確保に対して主体的に取り組もうという意識が低いのかもしれない。区が飲料水を整備してはいけないという認識も、ほかの区の状況を考えると不自然だ。

◎中野区

回答は得られていないが、提出した質問を載せておく。

1. 区の水道事業は都に任されていると聞いた。区が災害用に飲める水(井戸水など)を整備しておくことはいけないことなのか?

2. 避難所に配備してある水質測定器とはどのようなものなのか?
→すべての避難所についているのか?
→ポリタンクなどで運んできた水の水質を測定できるのか?
→飲めるかどうかを教えてくれるのか?(イオン濃度を測って飲める濃度よりも濃いか薄いかを示すのか?)
→定期的に壊れていないかチェックしているのか?

3. 浄水器について
→井戸やプールに設置するような大きなものか?それとも家庭で使えるような小さいものか?
→メンテナンスの頻度は?
→原水が汚いとフィルターを頻繁に取り替えないと使えなくなってしまうと思うが、そこはどうなっているのか?
→発電機などにつないで使うのか?
→水質基準(50項目)のうちどの項目が引っかかって飲めないのか?
→浄水器が満たすべき条件は何か?(機能・大きさ・形など)

4. 地震がおきると、水道が完全に復旧するには3ヶ月ほどかかると聞いた。とてもそんな長期間使える水を蓄えておけるとは思えないが、どうやって3ヶ月も持ちこたえるのか?

5. 受水槽とはなにか?
→区で管理しているのか?
→掃除は頻繁にやっているのか?
→受水槽には蛇口がついていて水を取り出せるようになっているのか?
→取り出す口はいくつぐらいあるのか? (複数あるのか?)

6. 害に備える上で予測しきれないことがあって難しいと思いますが、
→どんな備えをしたらいいかということを考えるときに何を参考にするのか?
→どんなことで苦労しているのか?

電話で、井戸水のことについて尋ねたところ、飲めるほどきれいではないので、原則生活用水として使うことになっている、といわれた。区はそれぞれ地域防災計画を立てるよう義務付けられているので、それがホームページに載っている区についてはそれを参考に、載っていない区については飲料水に関する記述を探した。


●飲料水確保のために何かしら対策を講じている区:


* 中野区:
→飲料水としての安全性を確保するために、給水する水の検査を実施できるように水質測定器を配備している。
→各施設からの輸送が困難な場合を想定し、井戸・プールの水などを利用できるよう避難場所に浄水器を配備している。

* 練馬区:
→区内の防災井戸(深井戸、非常用発電機などを装備)。
→今後、500m圏に一箇所の飲料水供給場所を確保するよう努める。
→長野県や福島県からも飲料水を支援してもらえる体制を作っている。

* 北区:
→深井戸を17箇所に設置(ただし古すぎて飲用に使えないものもある)。
→小中学校の受水槽(飲料水として使うのかは不明)。

* 文京区
→ペットボトルによる水の確保。
→小中学校の高架水槽・受水槽、民間の受水槽(のめるかどうかはかかれていなかった)。

* 中央区
→小中学校にはろ過機を配備し、プールの水を利用できるようにしている。

* 墨田区
→防災貯水槽の設置
→小中学校などに飲料水用ろ過機を配備。
→区内11箇所の事業所との貯水提供に関する協定を締結。

* 豊島区
→救援センターの空きスペースに水を備蓄。

* 台東区
→耐震性地下貯水槽4箇所。
→深井戸8箇所。

* 品川区
→受水槽の水を利用。
→ろ過機により井戸・プールの水を利用する。震災対策井戸は区内4箇所に設置してある。

* 江東区
→ペットボトルの水。
→河川などの水から毎分18リットル程度の飲料水を作ることのできる「造水機」を9台配備。

●受水槽を設けている区:
板橋区 中央区 中野区 品川区
北区 千代田区 新宿区
文京区 渋谷区 江戸川区
練馬区 世田谷区 港区

※区立のではなく、民間のものだけしかない区もあるかもしれない。

●都にまかせっきりにしている区:
葛飾区 足立区 杉並区


 中野区は、地域防災計画の中で、「井戸水やプールの水を利用できるように浄水器を配備している。」と書いているが、実際には飲料水として使えるようにはなっていなかった。
 
 中央区に電話をかけてみたところ、学校のプールに使うろ過機で飲める水を作ることはできる、とホームページと同様の回答が得られた。板橋区でも井戸水を災害用の飲料水として使うことになっているのを考えると、江東区が採用している「造水機」は、きちんとした飲料水を作り出せる機械なのかもしれない。

 検索エンジンを使って「造水機」を検索してみたところ、東レがヒットした。東レ以外でも、防災グッズを販売している会社では、RO膜やUF膜を使った災害用造水機を売り出している。手動や、バイクのエンジンを使って動かすものや、バイクや自転車に乗せて持ち運びできるものもあった。


3. 装置が備えておくべき要素

 厚生省のホームページでは、災害時に使う装置のデータベースがあり、そこには150件近くもの浄水器がのっていた。浄水器の性能を示す尺度としては、

耐圧・侵出・耐寒・水撃・逆流・負圧・耐久

があげられていた。このホームページでは、厚生省令第14号に適合する給水装置(家庭の給水管や蛇口、湯沸器その他の給水用具)を載せていた。厚生省令第14号は、http://www.jwrc-net.or.jp/tec/kyusuidb/kyusui/SHOREI001.HTML から見ることができる。厚生労働省健康局水道課のホームページからリンクをたどっていくと、このデータベースに製品を登録することができるようになっている。厚生省のデータベースに製品を登録しておくことは、製品の宣伝・信頼性という点でよい効果を与えると思う。
 
 東レのホームページには、災害でいろいろなものが破壊されると井戸水に何が混ざってくるかわからず造水機は重要、という内容が書かれていた。このことから、通常よりもさらに汚い水が原水として純水装置に入ってくることを念頭に置いて装置を作らないといけないと思う。

 純水装置が現在安全な水を供給しているかはっきりとわかるようにしてあることが必要だと思う。純水装置を動かしたとき、最初に出てくる水はそれほどきれいではない。純水装置がきちんと機能し、きれいな水を供給し始めたころあいが普通の人にもはっきりとわかるような工夫が必要。
たとえば、

『装置を稼動させたばかりのときは、赤いライトが点灯し装置から出てくる水がまだ安全ではないことを知らせ、十分きれいな水を供給し始めると赤いライトが消え青いライトが点灯する、というようにするといいと思う。』

 装置の扱い方がすぐにわかるようなマニュアルをつけておくとよいと思う。給水活動は区の仕事なので、おそらく区の職員が純水装置を操作することになる。しかし、すべての職員が装置の使い方をマスターしているとは考えにくい。操作方法は極力簡単にし、また、操作手順を書いたシールを直接装置に貼り付けるなどしたほうがよいだろう。これとは別に、装置の使い方やトラブルシューティングなどを丁寧に書いてまとめた冊子があると便利だと思う。(最近ノートパソコンを買ってもらったが、使い方があまり丁寧に書かれていない上に、パソコンにあまり詳しくない私にはわかりにくい説明文が多くて不自由した経験に基づく。)


4. 最後に
 
今回、色々な区における災害時の飲料水について調べてみたが、やはり、浄水器を配備しておくのは非常に効果的に思われた。しかし、実際に浄水器・ろ過機・造水機などを配備し、プールの水のように汚い水から飲料水を確保できるようにしている区は全体の20%程度だった。これは23区の水道事業を都が請け負っており、災害時の飲料水の確保も都が給水拠点を整備しているので、「都が何とかしてくれる」という気持ちが働いてしまうためと考えられる。プールの水や井戸水などを飲料水として使うのはほとんどの区で水を確保する最終手段と考えられ、このような汚い水から安全な水を取り出せる自信はあまりないようだ。


次回に続く。
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